直木賞作家・佐藤愛子さんの「九十歳。何がめでたい」は、シニアから若者まで幅広い年代に読まれて大ベストセラーとなりました。
この本でも評判を呼んだ毒舌ぶりは、佐藤愛子さんの出自や人生とも深い関わりがあります。
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1.累計100万部以上を売り上げた「九十歳。何がめでたい」
小説家として長いキャリアを持つ佐藤愛子さんはこれまで非常に多くの著作を世に送り出してきましたが、2016年に92歳で出版した「九十歳。何がめでたい」が最大のヒット作となりました。
「九十歳。何がめでたい」は91歳のときに雑誌連載を開始したエッセイを元に単行本としてまとめた著作で、波乱万丈の人生を送ってきたベテラン作家の目で平成の世相を一喝した痛快作です。
本来はめでたいはずの長寿に異議を唱えるような逆説的タイトルの効果もあって、このエッセイは2017年に日販とトーハンそれぞれの年間ベストセラー1位に輝きました。
累計の発行部数はすでに100万部を突破しており、作者の佐藤愛子さんも多額の印税収入を得たと推定されます。
本の価格の10%を作家の印税率とした場合、1200円の本が100万部売れれば単純計算で印税額は1億2千万円です。
そこから税金が引かれるとしても、佐藤愛子さんがこの本で高額の収入を得たのは間違いありません。
2.小説家として数々の文学賞を受賞
印税率は作家の人気度や実績によっても変わり、デビューして間もない無名の新人では5%以下とも言われています。
売れっ子の人気作家は印税率が10%以上に設定されている場合も少なくありませんが、そのような作家は全体の中でもほんの一握りです。
佐藤愛子さんは著作の売れ行きも期待できるため、そうした一握りの1人に入っている可能性があります。
佐藤愛子さんは基本的には作家稼業に専念しながら筆一本で財を成した人ですが、後述するように借金返済を目的としてテレビ出演や講演活動にも精力的に取り組んだ時期がありました。
「文藝首都」という同人雑誌に参加して文学活動をスタートさせ、40歳の年には2回連続で芥川賞候補になったことでも窺えるように、佐藤愛子さんはもともと純文学畑の作家でした。
その5年後に「戦いすんで日が暮れて」で直木賞を受賞した後も、菊池寛賞を受賞した「血脈」や紫式部文学賞を受賞した「晩鐘」など、佐藤愛子さんは数々の傑作小説を世に送り出してきました。
3.父や兄も著名な小説家・詩人
佐藤愛子さんの父は「あゝ玉杯に花うけて」などの少年小説で有名な佐藤紅緑さんで、詩人として知られるサトウハチローさんは兄に当たる人です。
サトウハチローさんと佐藤愛子さんは20歳も年が離れた兄妹でありながら、実は母親が異なります。
父の佐藤紅緑さんと最初の妻との間に生まれた長男がサトウハチローさんでしたが、佐藤愛子さんは父にとって2番目の妻となった舞台女優・三笠万里子さんとの間に生まれた次女だったです。
そうした複雑な家庭事情に関しては、大作小説「血脈」で克明に描かれています。
長男のサトウハチローさんは父への反発もあって中学校を落第になったりした時期もありましたが、詩人として大成し数々の名曲の歌詞も生み出してきました。
童謡として親しまれている「ちいさい秋みつけた」や「うれしいひなまつり」の他、終戦直後の日本人を勇気づけた流行歌「リンゴの唄」もサトウハチローさんの作詞です。
4.夫の会社の倒産で借金返済の日々
佐藤愛子さん自身も最初の夫と死別した後、文学活動を通じて知り合った作家の田畑麦彦さんと再婚しています。
この2番目の夫は小説家であると同時に実業家でもありましたが、結婚して11年目には事業に失敗して会社が倒産し2億円という多額の借金を抱えてしまいました。
佐藤愛子さんは借金返済のためこの時期に多数の小説を書きましたが、それらの原稿料も次から次へと返済に消えていったのです。
本来は純文学志向でありながら、佐藤愛子さんは借金を返すために必ずしも本意ではないジュニア小説を書かなければなりませんでした。
そうやって猛烈に仕事をこなした結果、佐藤愛子さんは自らが肩代わりを引き受けた3500万円の借金を見事に完済したのです。
この経緯について書いた小説「戦いすんで日が暮れて」で直木賞を受賞した佐藤愛子さんは、名実ともに一流作家の仲間入りをしました。
会社倒産の翌年に「偽装離婚」して別れた夫に関しては、人生最後の小説として90歳を過ぎてから書いた「晩鐘」でも描かれています。
5.歯に衣着せぬ物言いで人気
以上のような波乱万丈の人生を送ってきた佐藤愛子さんは、「九十歳。
何がめでたい」でも歯に衣着せぬ物言いで多くの読者を魅了してきました。
90歳を過ぎても衰えない毒舌ぶりはエッセーの人気にも反映されていますが、こうした性格は「血脈」でも描かれた佐藤家の血筋と無関係ではありません。
激情型の性格は父・佐藤紅緑さんの気質を受け継いでいるとも見られ、佐藤愛子さん自身も自覚していた佐藤一族の「普通やない血筋」が「血脈」の重要なテーマとなっています。
そんな男勝りの強い性格の持ち主だったからこそ夫の会社が倒産して多額の債務を抱えたときも屈せず、筆一本で借金を返済することができたのです。
90歳を過ぎた現在は2階に娘や孫たちが住む2世帯住宅の1階に1人で気ままに暮らし、老後の生活を楽しんでいると伝えられています。
そんな佐藤愛子さんは長年にわたる功績が認められ、2017年には春の叙勲で旭日小綬章を受章しました。
3500万円の借金を完済したこともある佐藤愛子さん
話題の「九十歳。何がめでたい」を読んで佐藤愛子さんの人柄に興味を抱いたら、他のエッセー作品や小説も読んでみるといいでしょう。
中でも波乱に富んだ半生を小説に昇華させた「戦いすんで日が暮れて」と「血脈」は必読の名作です。
老いを痛快に笑い飛ばすようなエッセイの数々は、特にシニア世代の読者に元気を与えてくれます。